人生の溜息

誰にだって溜息をつきたくなる時はあるもんだ。俺は毎日だ。

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かみ

 ようやく完成しました。第一章の壱、公開です。
 今回は完全に第三者の視点で語っております。なので永遠のアセリアらしさがない二次創作に感じるかもしれませんが、ご容赦ください。

 ヒロイン候補その一登場、の巻です。
 こんなのアズマリアじゃねえ、と思われた方。すみませんが、このままのノリで書いていきます。作者である私の妄想が書かれることはお知らせした通りですので。
 しかし書き始めた当初はこんな暴走癖のある設定じゃなかったんですがねえ。

 ちなみに私の趣味が大きく表れています。黒髪ロングヘアー最高。【悔恨】に代弁してもらっちゃってるようなものですが、私は髪をけっこう大事にしたり気にする性格です。
 もちろん世の中にある様々な髪型を否定するわけではありませんよ。他人の髪についてどうこう言うつもりはありません。が、私自身の髪を他人にどうこう言われるのはとても腹立たしいものを感じてしまいます。
 ……実はコンプレックスなのかもしれません。

 なお、SS内でリアが27歳であると書いていますが、安易に27歳の女性を思い浮かべないよう注意してください。
 ファンタズマゴリアで使われている暦は聖ヨト暦。
 1年は12ヶ月。1ヶ月は4週間。1週間は5日間です。
 総計して1年は240日となります。
 お分かりでしょうか。地球の1年365日に比べて約66%です。3分の2です。
 つまりファンタズマゴリアで27歳であっても、地球の人から見れば18歳くらい……というのが私の考えです。
 世界によって時間の流れが違うように、人間の成長速度が違うことも大いにありえます。誰も断言はできないのです。これは私なりに当て嵌めた設定である、と解釈してください。
 まあ要するに普通のエロゲーヒロインとそれほど変わらないと理解してもらえればOKです。

 *追記*
 ところで、今回の話の中で登場した以下のもの
・モーナム(リクェムを多く使った緑色の野菜スープ)
・コチの実(日本でいう梨のような果物)
 は、作者である私が勝手に考えた言葉です。実際のゲームには出てこないのであしからず。
 聖ヨト語としてありそうな名前を作れたと思うのですが、どうでしょうかね。
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第一章――壱

「はあ、はあ、はあ……!」

 急停止して角を曲がる。柱の陰に隠れて荒げる息をなるべく押し殺すが、ドクドクとうるさい鼓動のせいで上手くいかない。

「どっちに行った?」
「こちらの方に来ているのは確かです。この階からは動いておりません」
「よし、お前は向こう側に回れ。私はここから先を探す」

(こっちに来る!)

 離れた所から聞こえてくる会話に焦りが募る。
 ここは自分の家(と言うほど小さくはないのだが)のはずだ。なのにどうしてこうも緊張しなくてはならないのか。
 決まっている。自分の行動がそのまま答えだ。

 失敗は許されない。この日のために色々と準備してきたのだ。普通の女の子に見える服や靴を調達して、普通の女の子のような話し方もこっそり練習した。町で怪しまれないように普通の女の子が持つくらいの小銭もちゃんと用意したのだ。準備は完璧だった。これで失敗しては自分が許せない。
 しかし、いざ決行してみるとあっさり動きがバレてしまった。やはり素人が考えた脱走計画は本職の警備兵には通用しないのか。
 幸いにも顔は見られていないのでまだ不審者として追われているだけだが、このままでは時間の問題である。

 前方に注意しながら後方に気を配る。二つのことを意識しながら動くというのはとても疲れるものだと思いながら、できる限り静かに足を速めた。
 ふと、後ろから響いていたと思っていた足音が前からも聞こえてくることに気付く。

(挟まれた!?)

 さっき聞こえた会話を思い出す。
 向こう側に回った者と後ろの者が両側から押さえようとしていたのだ。そんな簡単なことにも気付かなかった自分に歯噛みする。しかし悔やんでいる暇はない。どこか逃げ場所はないか。

 見回して視界に入ったのは、両開きのガラス扉とそこから外に出られるバルコニー。前後から迫る追っ手の目からは逃げられるが、ここに出てしまえば今度こそ逃げ場はない。袋小路に自分から進むようなものだ。
 だが、他に近くに入れる部屋はない。ここしかないのだ。
 急いでバルコニーに出る。すぐに扉を閉めるが、そんなことは気休めもならない。行ける場所がここしかないなら追っ手もすぐここに気付くだろう。

 もはやここまでか。諦めが心を過ぎる。
 俯けた視線を上げると、眼下に広がる城下町――国名と同じ名前の首都イースペリアが見えた。
 愛する国。守るべき民。そして一度も歩いたことのない町。

(今日こそ行けるはずだった……行きたかったのに……ずっと楽しみに、していたのに……)

 滲みそうになる涙を堪える。思い通りにならないことが悲しくて、自分の力の無さが悔しくて、やり切れない思いだった。

 親友からもらう手紙に書かれていた自国の城下町の様子。その町を自分の足で歩ける楽しさ。大好きなお菓子を自分で買って食べる喜び。紙面から伝わってくる感情の一つ一つが励ましになり、そして羨ましかった。
 意を決して動いてみても、想像以上に多くの壁が立ちはだかっていた。しかし諦めず計画を練り、少しずつではあるが障害を乗り越え、こうして決行を迎えた今日――その計画は失敗しようとしている。

(私はただ、普通の女の子みたいに……!)

 口に手を当てて漏れそうになる嗚咽を無理やり押さえる。思い通りにならずむせび泣くなど子供ではないか。いずれ兵たちが気付いてここに来る。いくら逃げていた身でも無様な姿を晒してはいけない。

(だって私は、この国の――)

 その時、背後から聞こえたスタッという音に驚き、勢いよく振り返る。

「よう、助けがいるかい?」

 ――見慣れない少年がそこにいた。
 短髪で、自分が調べた町民の男性のような質素な服を着ている。
 若々しい顔にニヤリと聞こえてきそうな笑みを浮かべ、こちらを見ていた。

「え……」
「ふーむ、状況を察するに、ここから逃げ出したいんだな? よっしゃ」
「ちょ、きゃあ!?」

 自分の言葉を押し付けるように話す少年はこちらに近づくと、いきなり体を抱え上げた。俗に言う、お姫さま抱っこの状態である。
 そこまではいい。驚いてしまったが、それだけで済む。
 問題は自分を抱えた少年がバルコニーの手摺りにひょいと飛び乗ったことだ。

「お、降りなさい! あなた、一体何をしようというのですか!?」
「あんまり騒いだらまずいんじゃないの? まあいいや、行くぜ」
「行くって、どこに――」
「あーらよっと」

 なんと少年は本当にそこから降りたのだ――虚空へ。

「ひぃっ……!」

 かつてない死の恐怖を感じ、思わず少年の首にしがみ付いて強く目を閉じる。

「おお、言われるでもなく捕まってくれるとは安心だ。そのまま大人しくしててくれよ」
「な、何を暢気なことを言っているのですか! このままでは地面に激突して――」
「しまわないよ」

 当たり前のように放たれた少年の言葉に唖然としてしまう。遅れて気付いた。
 少年も自分も、落ちていない。むしろ――上昇している?
 ありえないと周りを見渡すが、見える景色も、肌を撫でる緩やかな風の動きも変わらない。
 空を飛んでいる! 現実とは思えない事態に、恐怖も忘れて見入ってしまった。

「わあ……」

 眼下に見下ろす城下町。右手は山脈。左手は平原。そして見上げれば晴れ渡る空と雲。
 広い――世界とは、なんと大きく広いのだろう。
 バルコニーで見た景色とさして変わらないはずなのに、何故こうも心奪われてしまうのか。
 まるで風と一体化しているような心地に陶然としてしまう。

 そこへ現実に引き戻す少年の声が届いた。

「おい、十分昇ったしここから下りるぞ」
「あ、はい」

 そこで少年の表情が、先ほどまでの頼もしそうな笑みではなく、とても意地悪そうな笑い方だと気付き、嫌な予感を覚える。

「町の端っこに下りるからな。しーっかり捕まってろよ」
「え、あの、すみません、できればさっきまでのようにゆっくr」

 願いは聞き届けられなかった。
 これまでの姿勢から急に体を傾けたかと思うと、少年はとてつもない勢いで一気に滑空し始めたのだ。当然、抱えられた自分もいっしょに。

「きゃああああああ!!!」

 頬を叩く強風に再び恐怖を煽られ、絶叫を上げる。
 地上まではかなりの距離がある。城下町の端となればもっと距離がある。
 その間、彼女は望まぬ恐怖の飛翔を存分に味わうことになった。





 城下町の端、正確には町を取り囲む城壁と古びた倉庫の間に向かってひたすら加速していた二人だったが、地上の石畳に激突する寸前に逆巻く風が二人を優しく包み、少年は軽やかな着地を決めてみせた。打ち捨てられた雰囲気のある場所で、周囲に人影はない。

「ほい到着っと」
「は、はひ……」

 少年の腕から下ろされて立とうとするも、力が入らずしゃがみ込んでしまう。

「おいおい、しっかりしなよ。手ぇ貸そうか?」
「い、いえ、大丈夫です。立てます」

 恐怖のあまり腰が抜けてしまったのだ。ガクガクと笑う膝を叱咤して何とか立ち上がる。
 どうにか気合で踏ん張り、改めて少年を見た。

 先ほどの印象の通り、若い。しかし幼さを窺わせる雰囲気はない。
 恐らく二十台半ば、振る舞いによっては三十台で通じるかもしれない。短めの黒髪に漆黒の瞳。身長は自分よりやや高く、町民が着るような簡素な服装で全体的にこざっぱりとした出で立ちだ。
 得体の知れない怪しい存在なのに――何故だろう、怖くない。
 不審極まりない相手なのだが、人類には体験不可能なはずの飛行経験のショックで疑心がどこかへ吹っ飛んでしまったのだろうか。

「大丈夫だって言えるなら平気か。じゃあ自己紹介といこう」
「あの、すみません」
「ん?」
「聞かないのですか?」
「何を?」
「……いえ、聞かないならそれでいいんです」

 何故城内で逃げていたのか。行動だけを見れば罪人のように動いていた自分のことが気にならないのだろうか。そう思って尋ねてみたのだが、返ってきたのはあっけらかんとした疑問。怪しんでいた自分の方が逆におかしく思えてきた。
 こちらから聞こうとしていたあの前人未到の空中遊泳(?)についても、口にするのがなんだか躊躇われてしまう。あんなことができるのは、知る限りだと永遠神剣を持つスピリットくらいなのだが……彼が気にしないのなら、こちらも気にしないようにしよう。

「まあいいや。俺の名前はタクミ。お前は?」
「私は、アズマリアと言います」
「アズマリア、か」
「はい」

 会話が止まる……そして気付く。

(しまったああああああああああああああああああああ!!!)

 少年が名乗った流れに乗って自分も名乗ってしまった――知られてはいけない本名を。
 普通の女の子らしい振る舞いはばっちり練習したくせに、普通の女の子らしい名前をちっとも考えていなかったのである。

(バカ、私のバカ、バカバカバカ……)

 よりにもよって自分から正体を明かしてしまった。どうやっても言い逃れはできない。
 そう思っていたから、耳に入った言葉にまともな反応ができなかった。

「なあ、リアって呼んでいいか?」
「……へ?」
「俺としては、アズマリア、だと呼ぶ時にちょっと仰々しく感じるんだ。リアってあだ名なら通じる部分もあるし、だめかな?」
「え、や、す、り、と」

 意味のない声を出しつつ、自棄になりかけた思考を引き戻す。
 まさか……気付いていない?
 慌てて少年――タクミが何かする前に口を動かす。

「ええいいですよはい私はリアということでそれでお願いします!」
「? ああ」

 畳み掛けるように続けたアズマリア、もといリアの言葉に、彼は首を傾げながらも頷いた。
 どうやら、何とか誤魔化せたようである。

 危なかった――背筋を流れる大量の冷や汗を感じながら、リアは心の中で安堵の溜め息を漏らす。どういうわけか、タクミは『アズマリア』のことを知らないらしい。普段なら怪しさ全開の視線でも向けるところだが、ここは彼の流れに乗ってうやむやにさせてもらおう。

「では私も、あなたをタクと呼んでもいいですか?」
「なんだ、対抗して俺の名前を削るってか? 名乗ったばかりの人の名前をわざわざ削るとは横着なやつだな」
「会ったばかりの女の子にあだ名を付ける人に言われたくありません」
「女の『子』?」
「……なんですかその目は」
「いーえー、べっつにー?」

 今年で二十七歳になったリアがジロリと睨むが、タクミはどこ吹く風といった調子でとぼけてみせる。

「とにかく――はじめまして、リアと呼んでください」
「ん。俺はタクミ、タクって呼んでくれ」

 笑顔で差し出した手を、同じく笑顔のタクミが握ってくる。普通の女の子として初めて交わした握手は、リアの胸に大きな達成感を生んだ。
 側近の侍女とも、初めて顔を合わせた時に同じことをした。お互いが名乗り合って、笑顔で握手を交わせばそれでいい。
 目標その一、外で友達を作る――達成!





   ***





「なあなあ、あの鍋がたくさんある屋台って何だ?」
「あれはスープ売りです。いい匂いがするでしょう?」
「全部スープか。色々あるんだな」
「国土の半分以上が湿地帯のこの国は北方五国の中でも、夜間の冷え込み対策が進んでいるんです。水源も豊富で、汁物は美味しいものがたくさんありますよ」
「ふーん。あ、蓋が開いた……うは、すげえ緑色」
「あれはモーナムです。野菜がふんだんに使われていて栄養がいっぱいなんですよ。作る人によって材料に差が出るんですけど、あれはきっとリクェムを多く使っていますね」
「りくぇむねえ」
「苦手ですか?」
「っていうか野菜全般が嫌い」
「お子様ですね」
「心はいつだって少年なのさ」
「いえそんな胸を張って堂々と未熟者を宣言されましても」
「いいんだよ、どーせこれ以上成長しないし」
「ダメですよ。大きくなるだけじゃなく、野菜には体調を整える効果も――」
「お、なあ、あそこ見ろよ。何か見世物やってるみたいだぜ」
「もう……って、引っ張らないでください!」

 城下町を歩きながら様々なものに興味を示すタクミに、リアは一つ一つ丁寧に説明する。

 なんでも、彼はイースペリアを訪れるのは初めてらしい。よかったら説明がてら案内してくれないかと頼まれ、町に行こうとだけ考えて特に方針を決めていなかったリアは二つ返事で了承した。
 と言っても、自分も城下町を散策するのは初めてなので上手く案内できるか不安だったのだが、本人曰く田舎者であり、そのタクミが予想以上に幼い反応をするので今の所は問題なく案内できている。

 それに楽しんでいるのはタクミだけではない。案内をしながら、リア自身も今まで感じたことのない新鮮な気持ちでいた。
 毎日のように城から見下ろしていた町を歩くとは、こうも驚きの連続なのだろうか。
 特に人込みがすごい。スープの屋台があった市場など、正面や横から来る通行人とぶつかりそうになるのは当たり前で、ぶつかっても軽く会釈するか、一言「失礼」と言うだけで誰もが忙しなく動き回っていた。これまでの人生でそんな軽い対応をされたことがなかったリアは、これが市井の感覚なのかと少々唖然としてしまったものだ。

 その最中、リアが突き飛ばされるようにぶつかり、倒れそうになったところをタクミが支えたことがあった。
 異性と密着するなどほとんど経験のないリアは顔を赤らめながらも感謝の言葉を口にして離れたが、自分の足で立ってからもタクミはリアの手を握ったまま。
 どういうことかと目でタクミに問うと、彼は笑ってこう言ったのだ。

『この方が安心だろ? 案内させてる俺のせいで怪我でもされちゃ悪いからな』

 さらりと放たれた台詞を聞き、しっかりと握られた手の暖かさも相まって、リアは恥ずかしさのあまり何も言えなかった。それまで感じていた、まるで歳の離れた弟を導く姉のような気分をあっさり打ち消され、あたかも想いを寄せる男性に優しく守られているような安堵に満たされたのだ。真っ赤になった顔を見られまいと俯くばかりである。
 城で催される社交界などで握手したり他人に手を触れられることはあっても、このような形で異性としっかり手を繋いだことはなかった。言わばリアにとって、これが生まれて初めて感じた男の温もりなのだ。
 なお、先の飛行の際、お姫さま抱っこされていたことは考えないでほしい。あの時はショックが大きすぎて異性の温もり云々を意識する余裕など欠片もなかったのだから。

 そんなこともあって、今は二人で手を繋いで歩いている。最初は恥ずかしさもあったが次第にリアも慣れてきて、町を回り始めた時のように丁寧な解説ができるようになった。
 横を歩くタクミが全く気にしていない――少なくともリアにはそう見えた――こともあり、自分だけが気にしてなるものかという悔しさから来る反発心もあったのだが。

 そうやってタクミに手を引かれてやって来た広場では、見世物をする一団が芸を披露していた。
 一人が簡素な笛で演奏して、他の者が曲に合わせて演舞しているようだ。リアが人垣の隙間から覗いてみると、一人が細い棒の上で御手玉をして、他は地面で踊っている。

(すごい……!)

 リアは棒の上にいる者に見入った。細い足場の上で危な気なく動き、御手玉を続ける本人も楽しそうに笑っている。釣られて観客であるリアも笑顔になった。
 こういったパフォーマンスは城には無く、見たのはこれが初めてである。

 ふと、周囲の反応が気になった。
 リアにとっては珍しくても、普通の女の子にとってはどうなのだろうか。大したものではないはずの芸に目を奪われている姿はおかしく見えるだろう。
 横目でそっとタクミの様子を盗み見る。

「おー、やるもんだな」

 彼も感心するように笑顔で頷いていた。同じような周囲の人間の反応を見ている限り、あの一団が披露している芸はすごいものらしい。
 ならば自分も感心した顔をしていてもおかしくない。そう判断したリアは安心して驚きと興奮を露わにすることにした。

 と、その時。
 芸を披露している一団を挟んで反対側に兵士が見えた。

(いけない!)

 一瞬にして芸への関心が失せ、焦燥が心に生まれる。
 町を巡回中の警邏なのだろう。二人のスピリットを伴って歩いている姿を見てリアは焦る。
 まだ見つかっていないが、顔を見られたらばれてしまうかもしれない。急いでこの場を離れなくては。

「あの、タク、移動しませんか?」
「どしたよ?」
「いえ、その、えっと」

 咄嗟に出せる上手い言い訳が見つからない。どうしたものかと慌てて考え、

 ――くきゅ~

 鳴り響いた音に、周囲の人も見世物を忘れて何なのかと振り返る。街中だというのに耳に届いたその音はかなり大きかった。
 最初に気付いたのは本人。慌ててお腹を押さえるが、それでなかったことにできるわけではない。
 次に気付いたのはタクミ。微笑ましいような、おかしいような、おもちゃを見つけたような、微妙な笑い方でリアを見やる。

「そーかそーか。思ったより自己主張の激しいやつだな」
「ち、ちがっ! 私は、その、ただ」
「はいはい、俺も小腹が空いたよ。何か食べようか」
「だ、だから違うんです! そんな目で見ないでください!」

 結局、タクミが主導する形でこの場を離れることができたが、どうも釈然としないリアであった。
 何より、周囲の人間が大なり小なりタクミと似たような表情でこちらを見るので居たたまれなくて仕方なかった。





 結局、リアはお腹が空いたと思い込んでいるタクミを説得できず、道すがら彼が買ったコチの実を受け取って、二人は高台にある公園に訪れた。

 備え付けのベンチに座る際に、自然に二人分のスペースを軽くはたいて汚れを取るタクミに好感を覚えて、リアは小さく笑う。
 よっこいしょー、と口にしながら座る彼の横に、自分も静かに腰掛けた。

「いやー、楽しいね」
「はい……ですが、少し疲れました」
「もう疲れたのか? まだ歩き出して一時間かそこらだろ」
「あなたが引っ張り回したせいで気疲れしたんですっ」

 なんとかあの兵士を撒くことはできたが、またもタクミから質問攻めにされながら市場散策をする羽目になったのだ。
 広場に行く前とは違い、兵士の目から逃げられたか緊張し通しだったので、リアは酷く気疲れしてしまった。

 自分の手にある握り拳大の果実に視線を落とす。
 このコチの実、果物の中ではリアが最も好むものであり、やや硬めの食感と瑞々しい甘さが気に入っている。城でもよく食後のデザートに食べる。
 そんなコチの実を狙ったように――決してねだったりはしていない――買ってくれたタクミに感謝しつつも、リアはそこで動きを止めた。
 当たり前のことだが、買ったばかりのコチの実は皮が剥かれていない。しかし手元にはナイフなどない。タクミはどうするつもりなのだろう。

「ところでタク、コチの実を買ったのはいいのですが……」
「ん?」
「どうやって食べるのですか?」
「こうやって」

 するとタクミは、手に持ったコチの実を服で軽く擦ると、そのまま噛り付いた。

「こ、このまま食べるのですか?」
「なんだ、皮は嫌いか? 別に毒ってわけじゃないだろ。これくらい普通だ」

 普通――その言葉が、リアの耳に強く響く。
 そうだ。リアは普通の女の子。ならば普通の食べ方でコチの実を食べるべきだ。

(よ、よし)

 実を服でよく擦る。次いでじっと実を見つめ、勢いよく噛り付いた。
 が、勢いがよすぎて口を大きく開けすぎてしまい、歯がコチの実に食い込んだ状態で口を閉じられなくなってしまった。

「あ、あぅ! うあううぅ!」
「慌てるな。噛み切れない時は実の方を動かすんだ。これはけっこう硬いからパキって割れるだろ」

 横からタクミが手を伸ばして、リアがくわえるコチの実を動かすと、小気味よい音と共に実が割れた。急いで口の中に残った方を咀嚼していくが、彼女の口にはかなり大きいようでしばらくの間ひたすら口を動かすことになった。
 そうやって少し噛り付いては再び咀嚼を繰り返し、二人で黙々とコチの実を食べた。

 先に食べ終わったタクミに倣って、リアも種やへたを飲み込んでしまったので二人の手元には何も残っていない。
 その後もこれまたタクミに倣い、果汁でべたつく指を舐めて服の端で手を拭き、リアはようやく人心地ついた。
 それにしても、普通の人の食べ方は行儀こそ悪いが、食べた後に何も残らないのは綺麗なものだ。普段の自分がいかに贅沢な食事を口にしているかが分かる。

「うまかったな。今まで食べた果物の中で上位三つに入るぞ」
「本当ですか? 私、このコチの実が大好きでよく食べるんです。気に入ってもらえて嬉しいです」
「コチの実っていうのか。今まで住んでたところになかったな」
「タクはどこからやって来たのですか? イースペリアは初めてだと言っていましたが」
「俺? あっちの方」

 そう言って、彼は山の方を指差す。
 イースペリアの西にそびえ立つエトスム山脈。その向こうにはソーン・リーム中立自治区がある。雪に包まれた寒冷地であると同時に、肥大した四種のマナが入り乱れた、人にもスピリットにも住みにくい土地だ。
 タクはそこから来たと言うのか。

「ひょっとして山越えしてきたのですか?」
「まあね」
「……その格好で?」
「まさか。持ってきた荷物のほとんどはこの町で売ったんだよ。これからの資金源にしようって思ってたからさ」

 どうりで軽装なわけだ。

「そうだったんですか……では、タクは出稼ぎのためにソーン・リームを出たのですか?」
「いや、違う。俺には稼ぎを待ってる人なんていないんだ」
「っ! すみません、嫌なことを……」
「いーよいーよ。要するに自由ってことだからね。で、ここは一つ旅でもしてみようかと思ったんだ」
「旅、ですか」
「ああ、俺はこの世界のことを知りたいんだ」

 世界を知る。それはリアにとって、決して叶わない夢のようなものだ。
 それでいて彼女が常に向き合っていなければならないのも、他ならぬこの世界である。

 離れた場所から山を見ても、その山に何があるのか、何が起こっているのか知ることはできないように。
 たった一つの立場からしか見ることができない世界は、どんなに色鮮やかに見えても触れることのできない幻のようなものだ。
 そしてリアには、今の立場を離れられる自由はない。背負った責務を放棄する意志も。

「世界……」
「そ。俺はまだ何も知らないようなものだからさ。この世界での自分のやるべきこととか。とりあえず、やりたいことの一つとして旅をしようって思ったわけ」
「私も――」

 それが不満なわけではない。
 歴代の儀式により、最もマナに祝福された者として選ばれてから勤めを果たしてきたと自負しているし、これからも変わらず続けていく。
 既にリアにとって『選ばれたから』というだけでなく、彼女自身が己に誇りを抱いているのだから。

 それでも、夢を見る思いを捨てたことはない。

「私も知りたいです。世界の広さ、自分がいることの意味、色んなことを」
「そっか……じゃあ、俺はリアより一足先に色々見てくるよ」
「ふふ、ちょっと羨ましいです」
「そんで、次に会った時に、俺が見てきたものをリアに教えてやるよ」
「え?」

 耳に入った言葉が一瞬信じられなくて、思わずタクミの方を見てしまった。

「なんだよー、リアはこれっきりの付き合いだと思ってたのか?」
「あ、ですが、私たちは……」
「ふっふっふ、逃がしはせぬぞ~、おぬしは既に運命に囚われておるのじゃ~」
「ちょ、やめてください、手の動きが怪しいですよ」

 両手をこちらに向けて指をワキワキと動かしながら笑うタクミがやたらと不気味に見えて、リアは思わず座ったまま身を引く。
 だからだろうか。また会えるのか、という問題も彼ならあっさり笑い飛ばしてしまいそうで、口に出す気にならなかった。

「何にしても、世の中が平和な内にささっと回っちまおうと思うんだ。そんなに長くはかからないよ」
「分かりました。タクの漫遊譚を楽しみにしていますね」

 楽しそうにしゃべる彼を見ているとこちらまで楽しい気分になってくる。
 野暮な質問はするべきではない。そう判断したリアは素直な気持ちを告げた。

 しかしリアは知っている。今の平和は、束の間の平穏に過ぎないということを。

 先日、諜報部から入った情報によると、ラキオスとサルドバルドの国境で戦闘があったようだ。ラキオスのエーテル技術を盗もうとした手の者が、追撃をかけたラキオスのスピリット隊に倒されたのだ。
 事後承諾の形となったが、サルドバルド国内にラキオスのスピリット隊が攻め入るほどの戦闘が行われた。イースペリアも含む三国は龍の魂同盟という友好条約を交わしており、協力関係にあるので問題にはならなかったが、戦闘があったという事実は確実に国内を緊張させる。
 ましてやそれほどの『嫌がらせ』となると、ラキオスと隣り合う敵国のバーンライトの仕業とは思えない。ほぼ間違いなくサーギオス帝国が動いたのだろう。
 遠くない内に戦争が始まる。それも、かつてないほど大規模の。

(平和はいつまでも続かない……それでもイースペリアは、私が必ず守って――)

 と、そこで思考を止める。普通の女の子は戦争や政治のことを深く考えたりはしない。今タクミの横にいるのはただのリアなのだ。
 念願の町に来たというのに、これでは城にいる時と変わらないではないか。今くらいはそういうことは横に置いて楽しまなければ損というもの。決して普段の仕事が嫌なわけではないが、せっかくタクミといっしょにいるのだから今は彼のことだけを――

(――って、私ったら何てことを!)

 自分で自分の思考に照れてしまい、勢いよく俯く。きっと顔は赤くなっているだろう。
 そんな時である。

「すまない、少しよろしいか?」
「!?」

 俯いたリアの耳に、タクミのものではない低い男の声が響いた。
 視界に映るのは具足を付けた足。

(兵士だ!)

 接近に全く気付けなかった。
 先ほどの広場から逃げたのを気付かれていたのか。

「何かご用?」
「うむ。実は人を探しているのだ。高貴な姿をした女性を見かけなかっただろうか? 美しい黒髪を伸ばしたお方なのだが」
「兵士ってそういうこともすんの? 知らなかったな」
「はは、実質的な防衛はスピリットの仕事だからな。我々が他の仕事をするのは当然だろう」

 俯いたままのリアをよそに、タクミが兵士と応じる。

 使い走りのような仕事であっても、きちんとした意識を持って仕事に当たる兵士の姿は誇らしいものだ。スピリットを特に蔑視するわけでもない発言も、自分の主義が国に通っている証拠に思えて嬉しくなる。
 が、今この場でそれが確認できても焦りがいや増すばかりだった。

「それで、どうだろう。見なかっただろうか? 君とそう変わらないはずの年齢……うん?」

 そこまで言って、兵士はようやく俯きっぱなしのリアに意識を向けた。
 視線が自分の黒髪に突き刺さるのを感じながら、リアは激しく焦る。

 まずい。こうして目の前に立たれてしまっては逃げようがない。
 町では誰にも気付かれなかったが、これほどの間近でまじまじと見られてはさすがに分かるだろう。

(ここまで、かな……)

 城のバルコニーで感じたあの諦めが再び沸いた――その時である。

「なあなあ、兵士さん」
「ん?」

 二人の間に割り込むように顔を出したタクミが兵士に話しかけた。
 顔の前で手をひらひらと振りながら軽い調子で言う。

「別に、俺たちのことなんて気にしないでいいだろう?」
「……そうだな。気にしないでいい」

(え?)

 思わず俯けていた顔を上げてしまう。
 今までの会話は何だったのか。

「ここら辺を探さなくてもいいんじゃないか?」
「……そうだな。ここら辺を探さなくてもいい」

 呆けているかのようにタクミの言葉を繰り返す兵士。
 かと言って正気を失っているわけでもなさそうだ。彼はちゃんとタクミの目を見て話している。

「もう行っていいか? 俺たちデートの最中なんだ」
「……ああ。行っていい」

 会話はそこで止まり、タクミはおもむろに腰を上げた。リアに目を向けて「行こうぜ」と促してくる。
 よく分からないが、このまま離れられるらしい。慌てて立ち上がり、タクミについて公園を出た。

「仕事熱心な兵士だったな」
「え、ええ」

 それにしても……一体何が起こったというのか。
 あの兵士は間違いなく自分を探していたはずだ。
 振り返って見ると、さっきは気付けなかったが連れて来ていたスピリットを伴って、別の方向に歩いていく兵士の姿が見えた。
 タクミの言葉通り、自分たちのことを気にせず別のところへ行くようだ。
 わけが分からなかった。

「でも空気は読めてなかったな」
「え?」
「デート中の男女二人組に声をかけるなんて無粋もいいとこじゃないか」
「で、デートってそんな……!」

 タクミの言葉に顔が赤くなるのが分かる。
 たしかに自分たちは男と女が一人ずつ。町を歩いている時は手を繋いでいて、公園には二人きりだ。ああそういえばコチの実の代金はタクミが出したのだった。彼が当たり前のように動いたので自分の分の代金を払うのをすっかり忘れていた。これは俗に言う『奢り』というものではないか。奢ってもらえて運がいい? 違う本質はそこではない。デートにて男が甲斐性を見せるために代金を受け持つ様式だと聞いたことがある。いやいやだからと言って自分たちはそういう関係ではなく、けどやっていることはそれらしいもので――
 頭の中は千々に乱れ、リアは軽いパニック状態だった。

 そんな様子を見て、それはそれは面白そうにニヤニヤとした笑みを浮かべながらタクミが口を開く。

「それじゃ、デート、の続きと行きましょうか、お嬢さん?」

 こちらに手を差し出しながら、彼はわざと一部を強調して言った。

「え、ええ、そうですね、よろしくお願いします!」

 頬の熱さを自覚しながら、恥ずかしさを振り切るようにリアは大きな声で返した。

 この際、違和感は気にせず楽しもう。
 結果だけを見れば、まだ二人で町を歩けるということなのだ。
 そう思い、リアはタクミの手を握り返した。





   ***





 あれからリアはタクミといっしょに町のあちこちを回った。
 もう一度市場を訪れ、先ほどは見過ごしていた屋台を発見して覗いたり。
 今度こそはと自分の財布を握り締め、二人分のネネの実のジュースを買ったり。
 装飾品の店に入って、棚に並ぶ商品を眺めて長々と居座ったり。
 普通の女の子として、思う存分楽しんだ。

 そして――

「とーちゃくー」

 日が陰る頃合になり、再びタクミに抱えられて空を飛び、リアは城に戻ってきた。
 出た時のバルコニーではなく、あそこから離れた位置にある幅の狭いベランダだ。

「ここでよかったんだよな」
「ええ、ありがとうございます」

 ふわりと降り立ったタクミの腕から下ろされる。

 二回目とあって今度は心構えができていたので、風が勢いよく頬を叩いてもみっともなく悲鳴を上げたりはしなかった。
 沈み始めた夕陽に照らされた町や城を眺める余裕もあったくらいで、飛ぶことを楽しめたと言ってもいい。もう一度飛んでみたいと考えてしまったくらいだ。
 しかし直後に、それは同時にタクミにお姫さま抱っこされることだと気付き、さらに何故自分がお姫さま抱っこされることだと当たり前のように考えるのかと羞恥の念に駆られた。

 とりあえず、とかく暴走しがちなこの思考を一度止めよう。どうもタクミが絡むと考え方がおかしくなる。このことは時間に余裕がある時にじっくり考えるとしよう。

(あ、あくまで私自身の考え方について見直すのであって、決してタクのことをじっくり考えるわけではなくて――)

「どうかしたか?」
「ひゃい!? な、何でもありませんよ!?」

 顔を覗き込んでくるタクミに慌てて返事をする。
 誰に対して言い訳をしていたのだ、自分は。

「そうそう、今さらだけど一つお願いがあるんだ」
「何ですか?」
「俺のことは誰にも言わないでくれよ。バレたら面倒なことになるし」

 両手を拝むように合わせながら言った彼の言葉に、リアは特に疑問を覚えなかった。
 空を飛ぶ。字にすればたったそれだけのことでも、それを行ったのがタクミだというだけで大問題だ。人間がスピリットの真似事をするなど考えもしないだろう。そんな考えもしないことが現実に起きたとしたら大騒ぎになる。

 つまり、今日一日の出来事はリアとタクミだけの秘密ということだ。
 どことなくくすぐったいものを感じて小さく笑う。このことは側近の侍女にさえ話せない。近しい者に隠し事をするのも気が引けるが、その隠し事をしているという事実さえも背徳感を高めるスパイスになる。
 何より、タクミと秘密を共有できることが嬉しかった。

「分かりました。今日のことは私の胸にしまっておきます」
「ありがとう、助かるよ」

 約束を胸に納め、二人で笑顔を交わす。

 そうしている間にも日の入りは止まらない。既に太陽は半ばまで沈み、空は黄昏時の色に染まり始めている。じきに星も姿を現すはずだ。
 それはつまり、いつまでもこうして話しているわけにはいかないということ。
 夢はいつか覚めるもの。楽しい時間には必ず終わりが来るのだ。

「じゃあ俺はもう行くぜ。今日は楽しかったよ、ありがとな」

 そう言ってタクミは離れる。僅かな幅しかないベランダなのに、離れた彼が酷く遠くに感じて、リアは咄嗟に声を出した。

「あの、タク!」
「ん?」
「私も、とても楽しかったです。ありがとうございました……さようなら」

 少しだけ手を上げて小さく振る。
 大丈夫、まだ笑顔でいられる。最後の瞬間まで、ちゃんと笑って――

「違うだろ」
「え?」
「こんな時はこう言うんだよ――またな」
「……っ! はい、またいつか!」
「ああ、またデートしよう」
「でっ……!」
「なっはっは、それじゃ」

 赤面するリアをよそに、タクミはベランダの手摺りにひょいと腰掛けて――体を仰向けに倒してそのまま落ちた。

「タクっ!?」

 慌てて駆け寄り、手摺りから身を乗り出して下を見るが、タクミの姿はどこにも見えなかった。まるで風に溶けてしまったかのように。

 タクミ……不思議な少年だ。
 思えば出会った時から主導権を握られっぱなしだった。普段は場の中心となり、周囲を引っ張っていく立場のリアにとっては彼の行動は何もかもが新鮮で、目を白黒させてしまうことも少なくなかった。
 やや強引な節もあったが、そうやって引っ張られることを楽しんでいた自分に驚く。

 不意に強く風が吹き付けてきてリアは我に返った。いつまでもこうしているわけにはいかない。
 名残惜しさを堪えて踵を返す。ベランダにある大窓に近付き、手をかけた。
 この大窓にはちょっとした癖があり、やり方次第では外からでも鍵を開けることができる。そのやり方を最初に発見したのはリア自身だ。
 知っていて当然である。何しろ大窓の向こう、この部屋はリアの部屋なのだから。

 大窓を少しだけ持ち上げて、なるべく静かにカタカタと揺らして元の位置に戻す。それを何度か繰り返すと、カチンと音がして鍵が外れるのを感じた。これで中に入れる。
 大窓を開いてカーテンの隙間からそっと中を窺う。見える範囲では出た時と何も変わっておらず、誰かが来た様子はなさそうだ。大丈夫だと判断したリアは、物音を立てないように中に入り大窓を閉めた。

 すぐ着替える気になれなかった。体の中は心地よい疲れと消えない高揚で満たされている。この感覚が落ち着くまでじっとしていたい。
 フラフラとベッドに近付いて腰掛ける。そのままカーテンの隙間から外を見た。

 風と共に現れ、風と共に消えた少年を想う。
 たった半日をいっしょに過ごしただけなのに、脳裏に残る姿に不思議と胸が痛んだ。

(タク……また、会えますよね?)

 心の中で呟かれた問いに、答える声はない。





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果て無き物語 | コメント:2 | トラックバック:0 |

だーかーらー

 どうにも収まりがつかないんだよね。

 なんで100点満点中90点以上の動きをしないとすぐさまキレるのさ!
 そもそも人間にいつも最高の動作を期待するなんて無理があるんだよ!
 でもって客に見えない位置なのをいいことに足を蹴るな!
 痛いんだよ脛が! ホール歩くだけで響くんだよ! びっこ引いちゃうの!
 サービス業の客商売なんだから他人の目を気にするのは当たり前! むしろ義務!
 他人の目を気にして作業が遅くなってるなんてのは見当違いでしかないの!
 っていうか周りの動きを把握してないと作業のフォローもできないでしょうが!
 いちいち人の失敗を見つけては言いがかりを付けるな! 鬼の首でも取ったつもりか!
 自分が失敗した時に周りは責めたりするんかい! フォローしようと動くでしょ!
 だいたい指示出す時の声が小さすぎ! わざと聞こえないように言ってるのか!
 それでこっちが指示を聞き逃したのを咎めるなんて逆ギレもいいところだ!
 何で怒ってるのかも分からない相手の胸倉掴んで壁に押し付けて面白いか!
 終いにゃ泣くぞ! 閉店後に!

 ……ふう。

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