人生の溜息

誰にだって溜息をつきたくなる時はあるもんだ。俺は毎日だ。

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できること

 今更ですが、このブログが始まってから一年以上経っていたんですね……気付くのが遅すぎて何か記念になるようなこともできませんでした。まあ、私にできることなんで高が知れてますが。

 やはり果て無き物語の序章を終わらせられなかったことが悔しいです。遅筆だという自覚はありましたが、もうちょっとどうにかならなかったかなあ。
 参が難関でしたね。この間までのハイペースをもっと早く発揮できていたら違ったのでしょうが……

 続きに勢い任せで書いたしょーもないものを置いてみる。
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愚痴日記 | コメント:2 | トラックバック:0 |

むりだってば

 勉強に手がつかね~!
 何このノリ。どうしちゃったの私。バリバリ書けちゃうんですけど。
 気が付けば過去最長の文章になりましたよ。序章しか書いてないのに過去なんて言っていいのか分かりませんけど。
 キーを叩く指が止まりません。こんなこと今までなかったので正直止めたくないのですが、いつまでもこのままってわけにはいかないので思い切って肆を公開して一度執筆を全部停止します。
 こっちにばかり気持ちが向いて試験に落ちてしまったら本末転倒ですからね。

 そんなこんなで公開した肆ですが、好き放題やりました。
 他所のアセリアSSでは暗黙の了解として避けられていたであろう、地位神剣にまで手を出しました。溢れる気持ちがやめられない止まらないかっぱえびs、違うそうじゃない(ぁ)
 主人公最強SSを書こうとしていることは公開前にお知らせした通りですが、問答無用で無敵にしたくはありません。匠が【悔恨】と【最後】以外と契約していないので限界はあります。
 神剣コーナーで【悔恨】が言っているように、匠は神剣の能力を100%まで引き出すことはできても、それ以上の能力の発展はできないのです。そういった限界がある中でどれだけ動かせるかがポイントですね。まあ、数多くの能力を持っていることになるので限界なんてあってないようなものですが。
 とにかく、匠の能力はこういう感じのものです。それでもよろしければお付き合いください。
愚痴日記 | コメント:0 | トラックバック:0 |

序章――肆

 こうして、匠は急速に悠人たちとの仲を深めていった。

「悠~っ、どうだった!? どうだった!?」
「……(無言でブイサイン)」
「まあ、悠人も今日子も、ここ数日頑張ったしな。結果は後からついてくるさ」
「つーか出なかったら直訴でもしてやれ、応援するぞ」

 脅威だったテストが終わったことを喜び合ったり、

「佳織~~~っ! 落ち着け~~~~っ!」
「ちょっ……ちょっと、悠っ! 座りなさいってばっ」
「フレー、フレー! か・お・り!」
「いや、匠よ。お前まで悠人に同調してどうする」

 文化祭でやる吹奏楽部の演奏会を観に行ったり、

「感謝しなさいよね。クラスに馴染めない悠のためにセッティングしたんだから」
「ちなみに高嶺をハメようと率先して動いていたのは岬だぞ」
「なんてことしてくれるんだよ……バイトだってあるのに」
「諦めろ悠人。もう決まったんだから腹くくれ」

 居眠りしていた悠人を勝手に演劇の主役に据えたり。

 そうこうしている内に刻限は迫る。具体的な瞬間は分からないが、近い内に事態は動くと匠は予感、否、必ず動くと確信していた。別世界にある神剣が契約者をせっついてきたのだ。向こうは多少なりとも逼迫しているということ。
 急に事が始まっても、匠は自分の体一つでいつでもどこでも動けるので特に身辺整理とかはしなかった。むしろ不要な動きを見せて物語をおかしくしてはならない。不自然にならない範囲で可能な限り悠人たちと行動を共にしていた。

(もうすぐだ……恐らく年末までに動きがある)
【12月も半分過ぎたしね。ところで当たりをつけたのは誰?】
(高嶺と秋月は確定。後は光陰と岬だろうな)
【私としては佳織も推しておくよ】
(あれ、佳織もか?)
【高嶺君の身近で大切な人って言うと、佳織は外せないと思うんだ】
(そだなー、たしかに高嶺とセットにするなら佳織だわ)

 【悔恨】と相談もしながら、匠は機を待つ。日に日に高まる緊張に神経を尖らせながら、時は流れていった。
 そして運命の瞬間がやってくる。





   ***





 それは匠が光陰、悠人、今日子の4人で下校中、神木神社に向かっている時に唐突に訪れた。
 奇妙な違和感が匠の全身を包み、意識を戻した時には隣を歩いていた他の3人が消えていたのだ。否、周りを見れば自分がいるはずがないところだと分かった。

「何だこれ?」
【いつの間にか3人と逸れちゃってるよ、何なのさこれ】

 即座に風を通じて探知開始。視界を広げて周囲を探る。

「やられた……意識誘導の結界が張られてる」

 認識を歪められる効果の陣が周囲に張り巡らされていることを知る。さらにはその陣に重なる形で人払いの効果もある二重結界だと分かった。
 匠は何者かの手によって、あの3人から離れさせられたのだ。

 もうすぐ何かしらの動きがあるだろうと予測していたが、まさか第三者の手による誘導があるとは思わなかった。
 てっきり神剣の運命操作のみによって『渡り』は行われると思っていたから、匠は彼らといっしょにいるだけに留めていたのだ。

 ――冗談じゃない。
 こちとらあり得なかった千載一遇のチャンスを掴むために動いてきたのだ。出し抜かれるなど以ての外である。
 匠は速やかに決意を固めた。

「【悔恨】、溜め込んだマナを全部使うぞ」
【おっけー、全力で行くよ】

 そう、形振り構っていられない。やらなければ全て無に終わる。
 強き意志を以ってマナと通ずる。やるのはいつもと同じこと。

(必ず、やってみせる!)

 直後、匠の周囲に風が舞い、かざした右手に収束していく。感知できる者ならば、その手に三日月の形に凝る薄い風の塊が見えただろう。
 何はともあれ、まずはこの二重の結界が邪魔だ。満足な力もない匠にはこれを無視して動くことができない。内部に囚われてしまえば、結界範囲を出るまで望む方向へ動けないのだ。
 だから、ぶっ壊す――研ぎ澄ませた意志を掌中の風に注ぐ。結界を構成する『壁』に向けて、

「はっ!」
【エリアルセイバー!】

 叩きつける。薄紙を切り裂くような手応えと共に、刃となった風は結界を切り裂いた。
 同時に自分を取り巻く歪んだ違和感が消えるのを匠は感じた。把握できた瞬間、駆け出す。目指すは先ほどまで向かっていた神木神社。
 匠という邪魔者がいなくなった今、第三者が動く絶好の機会。現に、風の探知を神社に伸ばしてみると不気味なほど高まるマナの気配を感じる。

 たったのワンアクションだと言うのに、匠の内在マナは一気に減った。彼の意志の力を以ってしても、ここまでマナを費やさなければ結界は破れなかったという事実に【悔恨】は驚く。
 走りながら風の操作を続ける今も内在マナはガリガリ削られているのだ。恐らく同程度の魔法を使えるのは残り一回。それを使えばもう後はない。

【だから気にしないでもっと集めちゃえって言ってたのに!】

 愚痴る【悔恨】の言葉にも匠は応えない。今は走ることに集中したかったし、心の中ではやっぱりそうしといた方がよかったかな~と考えていたからだ。

 そうして辿り着いた神木神社の麓、階段の手前に巨大な金色の光の柱が立ち上っていった。光は雲を突き破り、天空へとまっすぐに伸びていく。門が開かれたのだ。

(ぎりぎりセーフか!)
【まだ開いたばっかりだよ! 急いで!】

 距離にして約30メートル。全速で走れば5秒とかからない。
 途中で邪魔が入らなければ。

「なっ……あなたは!?」

 いきなり姿を現した匠を見て、その場にいた少女がが狼狽の声を上げる。
 巫女の格好をしているその少女は、手に古びた両刃の短剣を持ち、匠から見て門の手前に立っていた。
 その存在を認識した瞬間、彼女の身に宿る莫大な力を匠は感じ取る。

(くそったれ! ここまで俺は鈍ったか!)

 何故この化け物に気付けなかったのか。駆け出しながら匠は己を強くなじった。
 高まる門の気配を感じた時から風を通じて探っていたというのに、この場に脅威は見当たらなかった。なのに実際に目で捉えると桁外れな力の持ち主がいる。長いブランクがあるとは言え酷い有様だ。
 いや、反省は後回しだ。今はとにかく門に向かって一直線に走る。

「っ、いけません!」

 走る匠に向けて、少女は手をかざす。掌から溢れた力が複雑な紋様を描き、万物を押し止める障壁を生み出した。
 呆れるほど強大な力だ。これは断じて、身体能力は人間と変わらない匠に向けて使うような力ではない。これほどの力を操れるなら、津波や竜巻などの自然災害にさえ立ち向かえるだろう。
 それが見えないように匠は走る。立ち塞がる少女も、目前の障壁も眼中にないかのように視線を門に固定したまま右手を振るい、叫んだ。

「第一段階の解放を宣言する!」





 その少年の登場は完全に予想の範疇外だった。
 巫女服の少女、倉橋時深くらはし ときみは『時見』という力を持っている。これは簡単に言うと予知能力であり、集中すればかなり正確な未来予知が可能だ。
 それだけに、人払いの結界が敷いてあるこの場所に、彼女が招いていない人間が現れるのは予想外もいいところなのだ。

 戸惑う時深をよそに、少年は弾かれたように走り出した。向かう先は自分の後ろの門。
 無関係の人間を通してはならない。時深は咄嗟に障壁を生み出した。戦闘に於いて防御目的で使うものであり、進行の障害物にはちょうどいい。

 時深の生み出した障壁に、少年は弾かれて終わる――はずだった。

「かき消せ――【幻滅げんめつ】!!」

 咆哮と共に突き出された少年の右手が障壁に触れると、何かが破裂するような音と同時に障壁は一瞬で霧散した。

「そんな!?」
「邪魔だどけえ!」

 驚愕する時深の横を走り抜け、少年は一気に門へ飛び込む。一瞬遅れて、立ち上る光の柱は幻だったかのように消滅した。
 ――全ては数秒の出来事だった。
 後には誰も残らない。結界が張り直されたように、時深以外の誰も訪れなかった。

「一体誰なの……時見の目にも映ってなかったのに、どうして……イレギュラー?」

 『時見』とて万能ではない。彼女自身の能力を超えた力の使用はできないのだ。その限界を超えた先にあの少年はいたということになるが……

(私の障壁をあっさり消してみせた。あれも永遠神剣の力? それに何か言っていた……第一段階、解放、幻滅……あれはどういう意味? 神剣の名前?)

 疑問は尽きない。しかし、いつまでもここで考え込んでいるわけにはいかなかった。

「全て予定通り……とは、いかないわね」

 小さく呟き、手に握る自分の神剣――第三位【時詠ときよみ】を鞘に収めて階段を上る。神社に奉られている、もう一振りの相棒の下へ時深は急いだ。





   ***





 そこはまるで宇宙のような空間だった。
 果てしなく広がる闇の中で匠は浮いていた。遠くには星のような小さな光がたくさん見える。中には世界の内部が覗ける裂け目がいくつかあった。
 そんな中で匠はかつてない解放感に満たされていた。

「……っくくく……」

 俯いたまま、次第に肩を震わせる。

「はは……くっはははは…………」

 高まる喜びを抑えられず、匠は低く笑声を漏らした。
 抑えられるものか。ようやくだ。あのマナの希薄な牢獄から、ようやく出られたのだ。これを喜ばずしてどうしろと言うのか。
 そしてついに爆発する。

「あーっはっはっはっは!! やったぞ!! 出られた!! 出られたんだ!! 143年耐えなくても出られたぞ!! ふっははははは!! ざまあ見やがれ、くそったれ共!! てめえら自慢の檻だからって押し込むからこうなるのさ!! 自分の作戦で俺を逃がしてりゃ世話ねえな!! だーっはっはっはっはっは!!」

 己以外の全てに向けて彼は吼えた。
 溜まりに溜まった鬱憤と、脱出によって得られた解放の喜悦。
 世界の果て、悠久の彼方まで届かせようとばかりに迸る歓喜の咆哮は、時空も次元さえも超えて響き渡っていく。

 故に、『彼女』はやって来る。
 匠の声が届く限り、常に彼の傍らに在ると誓ったのだから。

 前触れもなく側に現れた無限のマナを持つ存在に、匠は少しも驚かなかった。『彼女』なら気付く、来てくれると確信していたから。
 それは巨大な扉の形をしていた。取っ手も鍵穴もなければ模様もない、ただただ大きな扉。

「よう……久しぶりだな、【最後いやはて】」
【はい、本当にお久しぶり……匠さんもお元気そうで何よりです】

 その名は【最後】。永遠神剣の頂点たる第一位のさらに上に座す地位神剣。
 匠が契約した二つ目の神剣だ。

【お母さん! 久しぶりだね、元気だった?】
【ええ、私は元気よ。【悔恨】もいい子にしていたかしら?】
【もっちろん! 匠とも仲良しだもんねー】

 久しぶりに会えた『母』に、【悔恨】も興奮気味だ。今すぐにでも自分の体験談を語りたがる、焦っているようではしゃぎ出したくなるような感情が匠にも伝わってくる。

 その間にも、匠は急速に本来の自分に戻っていた。
 繋がりを得られた瞬間から、【最後】が持つ無限のマナが止まることなく流れ込んでくる。人間の脆弱な体では絶対収まり切らないそれらを、匠は当然のように受け入れた。それが当たり前だから。
 自我が拡大し、意識が広がる。周囲から知覚したありとあらゆる情報が集まり、無制限に匠の脳へ集まってくる。人間の貧弱な脳では到底受け入れられないそれらを、匠は当然のように受け入れた。それが当たり前だから。

 そう、当たり前なのだ。過去に数え切れないほど行われてきたこの作業をまた繰り返すだけ。それを停滞させる理由など何処にもない。
 自分の中に自分が満ちてくる感覚に、眩暈を起こしそうな恍惚を覚える。元に戻った喜びと安心感に匠は存分に浸った。

 エターナル――第三位以上の神剣と契約し、己の運命を永遠の戦いに委ねた存在をそう呼ぶ。匠も遥か昔に【最後】と契約してエターナルとなったのだ。
 超越者や広域次元存在とも呼ばれ、中には神と名乗るものもいる。彼らは生物としての寿命がなくなり、殺されない限り決して死なない不老の体となる。そしてあらゆる世界を移動できる『渡り』の力を持つ。
 第三位以上の神剣でなければエターナルにはなれない。それはつまり第四位以下の神剣とは別次元の力を持つということでもある。彼らはその身一つで天変地異を引き起こせるほどの強大な力を有しているのだ。

【本当にまた会えてよかった……匠さんが急に繋がりを絶ったから、ずっと心配していたんですよ?】
「あー、それはすまないことをしたと思ってるよ」
【本当ですか?】
「本当だって。ただ、あの時のまま時間樹に入ってたらメンドくさいものを押し付けられただろうからさ」
【時間樹……なるほど、そうですか。あそこには【叢雲】が封印されていましたね、匠さんは彼女に会いましたか?】
「いや、俺のことは知られてない。出雲の連中にも見つからないように気を付けてた」

 時間樹とは匠が先ほどまでいた、悠人たちが住んでいた世界を含む巨大な樹のことだ。
 ここに住まう者たちは時間樹を管理する者に監視され、目立つ存在には特殊な枷を付けて時間樹内での運命を管理しやすいように誘導するのである。
 神名かんなと呼ばれるこの枷は時間樹の中ではあらゆる理よりも優先され、こちらの意思などお構いなしに誘導されてしまう。とある事情によって時間樹に押し込まれた匠としてはたまったものではなかった。
 そこで匠は【最後】との繋がりを強制的に絶ち、自分の力を極限まで削ぎ落とすことで時間樹の監視網を潜り抜けることに成功したのだ。もちろんその後も下手に力を取り戻さず目立たないよう慎重に行動していたので、こうして無事に神名を付けられることなく時間樹を脱出できたのである。

「それより【最後】、頼みがある」
【はい】
「俺はまだ戦わなくちゃいけない。もちろん自分の好きなように生きてくけど、それだけってわけにはいかないだろ。俺はやつらを許すつもりなんてこれっぽっちもないし、やつらだって俺を生かしてはおかない。だから、またいっしょに戦ってくれないか?」
【ふふ、その答えはもうずっと昔にしてありますよ。匠さんは既に契約の代償を果たしてくれています。今も、これからもずっと。ならば私の返事は変わりません。どこまでも、あなたと共に在りましょう】
「……ありがとう」

 深々と頭を下げる匠の前で【最後】の姿が薄れていった。扉の輪郭が崩れ、マナの粒子となって匠の体に吸い込まれていく。顔を上げた時には、匠はエターナルとしての力を完全に取り戻していた。
 『母』との話が終わったところを見計らって【悔恨】が慌しく話しかけてくる。

【ねねね、匠】
「分かってるよ【悔恨】。みんなに会いに行こうぜ」
【よっしゃ、いっくよー!】

 そして匠と【悔恨】は二人同時に、二重の詠唱を始めた。

「I am the bone of my sword」
【体は剣でできている】

 それは、二人が歩んだ軌跡。

「Regret is my body,and mana is my blood」
【血潮はマナで、心は悔恨】

 心象を言葉で表し、無限のマナで形を現す。

「I have held over a thousand eternity swords」
【幾多の世界を渡りて不滅】

 願いも、祈りも、望みも、等しく意味を為さず。

「Never know to death」
【ただの一度の消滅もなく】

 ここに在る自分こそが全て。

「And never know to satisfaction」
【ただの一度の満足もなし】

 行き着いた己の果てを超えた先に、

「Have withstood pain to call many swords」
【果て無き者は永久に独り、夜空の下で剣を取る】

 【最後】の力によって生み出された、匠の真の力。

「I have infinity regrets.This is the only my meaning」
【ならば我が存在の意味は他に要らず】

 名を『無限の剣界むげんのけんかい』と称す。

「All of me was "unlimited sword world"」
【この身は無限の剣を包んでいた】

 瞬間――マナが爆発した。
 ビッグバンによって宇宙が生まれたように、そこに一つの世界が現れた。

 世界間を移動する際に見える宇宙のような光景は瞬く間に姿を消し、塗り潰すように新たな世界が広がる。
 匠が降り立ったそこは草原だった。
 涼やかな風が吹き抜ける野原が地平の彼方まで広がり、覆い尽くす夜空には数え切れない星が瞬いている。
 それだけなら(不思議ではあるものの)きれいな風景として表現できるかもしれない。
 しかし、この草原に散らばる無数の存在が、ここが自然の風景でないことを物語っていた。

 無骨な剣が刺さっていた。
 優美な槍が立っていた。
 質素な刀が飾られていた。
 巨大な斧が転がっていた。
 薄い布が漂っていた。
 分厚い本が浮いていた。
 一足の靴が揃えられていた。
 他にも指輪、冠、盾、短剣、腕輪、杖――あちこちにある全てが永遠神剣だ。
 匠の、大切な家族である。

【……お? 何だ?】

 現れた匠に最初に気付いたのは、彼から最も近い場所で傾いた姿勢で地に突き刺さっていた一振りの剣。

「おいっす。久しぶりだな」
【え、何だよ、匠か? 匠かよ、おい!?】

 俄かに騒ぎ出したその声に、他の神剣たちも何事かと意識を向け――そこにいる匠に気付く。

【うぉいみんな、匠が来たぞ!!】
【本当ですか!? ご主人様がいらっしゃったので!?】
【あーーー!! 匠さんだーーー!!】
【マジかよ……くたばってなかったのか】
【わーい、タっ君だー!】
【ったく、心配させやがってこの野郎!】
【おかえり匠!】
【やっぱり生きていたね、うん】

 津波の如く押し寄せる歓迎の声は、まるで物理的な圧力を持っているかのように匠に降り注いでくる。それを一身で受け止めることを心地よく感じながら、匠は周囲を見渡した。

「みんな、本当に久しぶり。長い間来られなくてごめんな。いやー、ちょっと困った事態になってたからさ。ついさっき、ようやくそれが解決したんだよ。呼ぶより自分で来た方が早いと思ったから――」
【おとーさーーーん!!!】

 神剣たちに語りかける匠の言葉を遮って、彼に突撃を仕掛けたのは小さな火の玉。体当たりするようなその勢いに、匠は驚きながらも受け止めた。

「おっとっと……よしよし、寂しかったのか?」
【おとーさん、おとーさんだ! ん~、おとーさん!】

 あやすように伸ばした匠の手の周りのくるくる回り、次いでその顔に擦り寄る。自分の顔にくっついてくる火の玉を優しく撫でる匠には、火の玉の感情が手に取るように分かった。
 それはあたかも、幼子が離れ離れになっていた親にようやく会えた安堵で泣きじゃくっているようだった。

「まったく、みんなの手前だぞ。お前の方がお姉さんだっていう子もいるのに、示しが付かないじゃないか」
【やっ! おとーさんがいればいいの!】

 きっぱりと言い切ってくる言葉に、匠は頬を緩ませる。娘にここまで慕われて嬉しくないわけがない。

 そう。匠は親なのだ。
 今の火の玉だけではない。この草原にいる全ての神剣にとって、【最後】が母、匠が父なのである。

 地位神剣と契約したことで、母体である【最後】のマナにイメージと名前を与えることで新たに神剣を生み出し、その神剣の力を制約無しで引き出せる権能が匠に与えられた。これにより匠は、自分がイメージできることなら文字通り何でもできるようになったのだ。欲しい能力があれば、その能力を宿した神剣を生み出せば好き放題に使えるのだから。
 それをいいことに、自分の思うように大量の神剣を生み出してしまった時期もあった。ここにいる神剣の多くは、彼が無思慮にも後のことをまったく考えず生み出したものである。
 人間に例えるなら、育てられる当てもないのに子供を作りまくった、といったところだ。今になってから思い返すと死にたくなるほど情けないのだが、生まれた神剣たちに罪はない。生み出した神剣を、それぞれが自分の望む契約者を見つけるまで責任を持って面倒を見ると匠は決めた。

 ここで活躍するのが『無限の剣界』だ。
 これは【最後】の無限のマナを用いることで初めて発動することができる極大魔法であり、平時は匠の体内で永続的に展開している。
 正確には魔法ではなく一つの世界の名であり、そこには【最後】に連なる全ての神剣を内包できる。そして代価を払うことでそこから自在に神剣を呼び出せるのだ。
 魔法として発動すると現実を侵食し、匠のいる場所の情報を上書きして、この夜空と草原が広がる世界を現出させる。

 ところで、契約者が見つかるまで、と述べたように匠は彼らの契約者ではない。あくまで神剣たちの父である匠の場合は、力を与えて神剣と一時的に協力する代行者と言える。
 真の契約者とは神剣の力を引き出すだけでなく、その力を互いで高め合い何倍にも増幅させるのだ――匠と【悔恨】がそうであるように。

 余談だが、【最後】との契約の代償は『彼女の子供たちの面倒を見ること』である。匠はこれを、神剣たちの親になれ、と解釈した。『無限の剣界』に納めた神剣たちを教育したり躾けたりしている内にいつの間にか父親のように慕われ、今に至る。

「おーいみんな、聞いてくれ!」

 額にくっつく火の玉をなだめた匠は全ての神剣に呼び掛ける。物理的に離れすぎている神剣にもその声はしっかり届いていた。『無限の剣界』は匠の世界。そこにある全ての存在に声を届かせることは造作もない。

「俺はまた戦いを続ける。それには俺一人の力じゃ心許ない。【悔恨】と【最後】はいっしょに来てくれるって言ったけど、みんなが力を貸してくれればもっと心強いんだ。俺はみんなとは契約していない。それでも、気が向いたらでいいから呼んだ時に応えてくれないか?」

 一見すると普段と同じような匠だが、内心ではそれなりに緊張していた。
 匠が契約している神剣は【悔恨】と【最後】の二振り。『無限の剣界』にある無数の神剣とはどれとも契約していないのだ。いくら彼らの力を好き放題に使える権能があるとは言え、本人たちからの了承も無しに勝手なことはしたくはなかった。

【水臭いぜ、匠】
【あたしたちはみんなタっ君が好きなんだから】
【ま、仕方ねえから力を貸してやるよ!】
【ご主人様は意外とだらしないところがありますからね。私たちが支えて差し上げなくては】
【いまさらという感じもするけど、僕らは望んで力を貸しているんだ】
【わたしもおとーさんといっしょにがんばるよ!】
「ありがとう! 愛してるぜお前ら!」

 当たり前のような快諾の言葉をもらって匠は感動してしまった。何年も彼らをほったらかしにしていたというのに変わらず自分を慕ってくれる子供たちが可愛くて仕方ない。

 なお、この都合が良すぎるように思える展開は匠と神剣たちの感覚の違いが原因である。基本的に神剣には寿命がないので、余程の事情がない限り非常に気が長いのだ。己が望む契約者が見つからない場合など事情によっては100年単位で孤独にすごすことも多い。
 それに比べて『無限の剣界』の中にいればたくさんの家族といっしょに過ごせるので、寂しさや退屈などはほとんどないようなものだ。母と協力してこの世界を創り、自分たちという荷物を背負う匠を、神剣たちは強く尊敬しているのである。

 了解を得られた匠はすぐに動き出す。さしあたって必要なのは修行の場所。となれば『彼』が最適だ。またお世話になるとしよう。

「第六段階の解放を宣言する」

 宣言と共に多数の体内回路を開く。あの牢獄の中では第二段階までしか開いたことがなかったので、これほどのマナを流すのは久しぶりである。

「狭間に響け――【虚気うつろぎ】」

 呼び掛けに応えて現れたのは一つの扉。【最後】とは違ってちゃんとドアノブが付いている。
 第五位【虚気】。扉と、その内部に広がる空間型という一際変わった永遠神剣だ。

【……あれ、さっそく僕の出番?】
「ああ。こんなとこでずーっと『無限の剣界これ』を展開してると周辺世界との摩擦がシャレにならないからさ。またお前の中を貸してくれよ」
【……いいけど……たしか僕って一生の内48時間しか使えないはずだよね】
「そうだな」
【……匠ってばもう1000時間以上使ってない?】
「なんだ、数えてたのか。そだなー、全部合わせると500年くらい篭ってたことになるから、それぐらい使ってるんじゃね?」

 口調の通りのんびりとした性格の【虚気】も、匠の自由っぷりにやや呆れ気味である。

【……まあ、匠だから別にいいけどさ……でも出る時は言ってね。空間を裂かれるってけっこうヤな感じなんだから】
「分かってるよ――それじゃみんな、また今度なー」

 【虚気】から了解を得られると、匠は振り返って他の家族と別れの挨拶を告げた。
 別れを惜しむ声を嬉しく思いながら、匠は『無限の剣界』に供給するマナを絶つ。途端に周囲の風景は鮮やかさを失い、匠と【虚気】を除いて崩れるように消えていった。

 元の空間に戻ったことを確認すると、撫でるように【虚気】の表面を優しく叩き、匠は扉を開いて彼の中へ入った。内部は白一色の無味乾燥な空間が広がっている。地球と同じくらいの広さがあるが、ちゃんとした足場があるのは扉の周囲だけである。
 扉を閉めた途端に匠の体に多大な負荷がかかる。外界との繋がりが遮断され、内部にある全ての存在に【虚気】の制約が適用されたのだ。
 重力は地球上の10倍になり、空気濃度は4分の1。気温は50度からマイナス40度の間を常に上下し、さらに空間内のマナ量は【虚気】の気分次第で変わるという地球よりも格段に厳しい環境は修行するには打って付けだ。

 そんな【虚気】の中へ久しぶりに入ったというのに歩みを進める匠の足並みに乱れはない。呼吸をするように自然と【悔恨】の力で肉体強化を施し、10倍の重力をその身一つで受け止めている。
 足場の中央まで来た匠は足を止めて一度深呼吸をする。

「さて……まずは戦闘訓練といきますか」

 気配察知のための風の操作練習とか、長い間会えなかった家族との団欒とか、やらなきゃいけないことややりたいことは他にいっぱいある。それらを差し置いて真っ先に戦闘訓練をしようと思ったのは、それが一番必要だから、ではない。
 ぶっちゃけ匠もムシャクシャしてるのだ。あの牢獄から出られなかったストレスを、思い切り体を動かして解消したいのである。

「それにムシャクシャしてるのは俺だけじゃないみたいだしな」
【そうだね。さっきも、声は出してなかったけどすっごい睨んでたみたいだし】

 クスクスと笑う【悔恨】の言葉に頷きながら、匠は虚空に手をかざした。

「第八段階の解放を宣言する」

 宣言と同時に匠の体内の回路を膨大なマナが駆け巡る。高まるマナに慄くように大気は軋み、ひび割れた空間の隙間からオーラフォトンの光が漏れ出した。

「悪を抱きし魔剣よ、我が手に現れ星を砕け――【魔王まおう】!」

 かざした手に出現したのは長大な両刃の剣。闇色の刀身を持ち、髑髏のような鍔の中に虚無を思わせる丸い空洞がある。
 そんな禍々しい雰囲気を持つ神剣――第三位【魔王】に、匠は実に気安く話しかけた。

「やあ【魔王】、こうして会うのは2世紀ぶりだな。元気にしてたかい?」
【……相変わらず能天気な面してやがるな】
「そういうお前も変わらず殺気立ってるな。みんなと喧嘩……しただろうけど、泣かせてないだろうな」
【だったらどうだってんだよ、あ゙?】
「もちろん、オシオキ♪ ってことで俺の訓練に付き合ってもらうぞ」
【そいつは『いつも通り』でいいんだよな】
「ああ、いいぜ――俺を殺してみせろ」

 ニヤリと笑って匠は【魔王】を放り投げた。宙に舞った【魔王】は落ちることなく空中でピタリと動きを止め、その切っ先を匠に向ける。

 これまでの会話で分かるように、【魔王】は匠を嫌っている。憎んでいると言ってもいい。
 全ての子が親を慕うわけではない。中には反発し、逆らう子も多くいる。【魔王】はその中の筆頭とも言うべき神剣で、隙あらば匠を殺して自由になろうと企んでいる。自分が『無限の剣界』に囚われているなんて間違っていると主張しているのだ。
 こういった危険思想を持つ神剣を匠は放り出すつもりはない。かと言って力尽くで押さえつけるのも大人気ないと考え、匠は彼らにある提案をした。
 俺の屍を超えていけ――要するに、自由になりたければ親である自分を倒して誰にも文句を言われることなく巣立っていけ、と伝えたのである。その際に生死問わず、とも。
 そうして挑戦してくる神剣たちを匠は一振り残らず撃退してきた。それは今のように【虚気】の内部だったり、どこかの世界に滞在していた時に運良く見つけた契約者を嗾けてきたり、中には匠が激しい戦いを終えて消耗している時を狙われたこともあったが、匠の方もきつく躾けるチャンスだと言って、訓練するような気持ちでよく挑発したりして利用している。

 さて、永遠神剣は単独では能動的に動くことはできない。彼らは基本的に運命操作を用いて自分の契約者を引き付けることしかできないのだ。
 その状態でどうやって匠に挑むのか。答えはこうである。

「母なる【最後】の名の下に、我、榎本匠が召喚す。御身に秘められし神獣よ、我が前に姿を現したまえ……ヴリトラ!」

 匠の言葉に反応して、ただでさえ強い【魔王】の存在感がさらに膨れ上がる。闇色のマナがその剣身を包み、巨大な球体となった。
 球体が消えた後には一匹の竜がいた。見上げるほどの大きな竜だ。名は禍竜ヴリトラ。【魔王】に秘められた意志が具現化した守護神獣。
 漆黒の鱗が体を覆い、口元には人の胴ほどもありそうな白い牙が並ぶ。闇のオーラを纏う中、黄金色に輝く双眸は憎悪を込めて匠を睨みつけていた。

 契約者がいない神剣であっても、こんな風に匠は【最後】の権限を使って、神剣を核にすることで守護神獣を呼び出して戦わせるのだ。

【はっ、命がいらねえらしいな!】
「解釈はお好きにどーぞ。どうせやることは変わんねー」
【上等だ、ぶっ殺す!!】

 殺意を振り撒き、周囲のマナを無節操にヴリトラは取り込んでいく。押し寄せるその殺意を柳に風と受け流して匠は不敵に笑ってみせた。

【いきなり第三位を相手にして大丈夫?】
(そりゃあきついさ……けど足踏みしたくないし、ちょっぱやで勘を取り戻すならきつい方がいいんだよ)
【まー、文句はないけどね。死なないでよ?】
(じょぶじょぶだいじょぶ、なんとかなーる)

 話しかけてきた【悔恨】になんとも軽々しい口調で答える。巨大な竜を前にして変わらない匠の調子に【悔恨】は安心した。

 既に匠の体内回路は【魔王】を呼ぶ時に開かれている。流れるマナ量も十分だ。後は自分がどれだけ早く勘を取り戻せるか。

「踏み削れ――【石火せっか】」

 石床を強く踏む両足には底にいくつものローラーが並ぶ靴、第七位【石火】が、

「見据えろ――【鷹目たかめ】」

 顔を覆った左手の下から露わになった右目には巴模様が浮かぶ紅い瞳、第十位【鷹目】が、

「誘惑する薔薇の雫――【恋人こいびと】」

 勢いよく振り下ろしたその手には刀身が緋色の刀、第六位【恋人】が握られていた。

「さーてと、気合入れろよお前ら。踏ん張らないと死ぬぞ」
【おっしゃ! 任せとけ!】
【承知であります、主殿】
【ああ、匠、ようやく会えたね……君を想うとボクh】
「うん、とりあえず【恋人】自重しような」

 どことなく気が抜けたように笑いながら匠は身構える。【悔恨】の他に三振りの神剣を同時に操ることに少しも気負いはない。

「まあ、なんだ。いっちょやるかい?」
「VVVVV……WWWWWRRYYYYYYYYYYYYYY!!!」
【私も行くよー!】

 【悔恨】の声に後押しされるように、咆哮を上げるヴリトラに向かって匠は突進した。



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果て無き物語 | コメント:2 | トラックバック:0 |

こくち

 かつてないほどテンポ良く筆が進む今日この頃です。
 何故か肆がどんどん書けています。どうして私はこの調子を今まで出せなかったのだ。
 そしてどうして私は肆と関係ないものまで書いているのだ(ぇ)

 しかし、残念ながら更新頻度が下がります。
 ちょいと検定試験があるので、勉強しなければいけないんですよ。執筆にのみ集中しているわけにもいかないので、肆の公開が遅れることになりそうです。いやまあ一切やらないのもストレス溜まるからチマチマ進めていきますけど。
 悔しいですが、序章を一年以内に終わらせることはできなさそうです。チクショウ。
 なお、更新頻度がこれ以上下がりようがない、という声はスルーします(何)


愚痴日記 | コメント:1 | トラックバック:0 |
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